~ Je te vuex ~6







「・・・お前、もうあんなのと付き合うの、止めておけよな」
「うん。・・・ごめんね。小次郎」

見られはしなかったが、されることはしっかりされた。玄関を入ってすぐの廊下、その冷たい床の上で、『僕以外の男に助けを求めるなんて、お仕置きだからね』 と碌に服も脱がされずに半ば強引に事に及ばれた日向は、解放された後も身体のあちこちが痛む。
まずはそのことを責めても良いようなものだが、日向はそんなことよりも、頭のおかしそうな男と岬が関係をもつことの方が心配だった。

今は風呂に入って汚れた身体を綺麗に流し、二人で並んで浴槽に浸かっているところだ。

「僕ね、小次郎だけが好きだよ。でも、色々と遊んでたのも本当。・・・ずっと一人だったから、って言い訳しても駄目だよね・・・。ごめんね」
「・・・他の奴が遊び?俺じゃなくて?」
「小次郎が遊びの訳ないじゃない。だって、僕の嫁だよ?・・・家族、でしょ?」
「その、嫁ってやつだけど・・・」

目元を赤く染めながら、日向がボソリと口にする。

「俺はお前が好きだし、そう簡単にお前のこと諦めるつもりもないけど・・・。でも、俺よりも好きな奴が出来たなら、正直に言ってくれていいから。それでも、望みがあるなら頑張るし。俺、お前に選んでもらえるように頑張るから・・さ」
「こじろう・・・」
「だから、その、嫁なんてのじゃなくて、ちゃんとした関係になれないかな。・・・恋人、とか」
「・・・・・・」
「それとさ。・・・その、お前が、だ、抱くんじゃなくて、さ・・れる方がいい・・っていうなら、それでもいいし・・。おれ、お前みたいに上手じゃないけど、ちゃんとするし」

顔を真っ赤にして途切れ途切れにようやくそれだけを言葉にすると、日向は恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。

岬は一瞬目を瞠った後、日向が目にしたなら見蕩れたであろうほどに綺麗な笑みをその面に浮かべて、「・・・・もう、可愛すぎるんだけど」と呟いた。

「お願いだから、こっち向いて。小次郎」

岬は日向の頬を両手で挟んで自分の方を向かせたうえで、視線を合わせる。

「小次郎って、本当に可愛くて、お馬鹿さんだよね」
「馬鹿っていうな・・・」
「僕が一度でも、君を抱きたくない、なんて言った?・・・まあ、君が僕を抱きたいって言うなら、別にそれでもいいけど。でも、そんなことないでしょう?僕にされるの、好きでしょう?」

岬が首を傾けて問うと、日向の瞳がますます潤んで、目元に色気が滲む。

「僕はね、君が欲しいんだ。セックスって意味だけじゃなくて、君の全部が欲しい。だから、君が『僕の嫁』って言っても否定しないでいてくれるのがすごく嬉しい」
「みさき」

日向が甘えたような声音で名前を呼ぶのさえ、岬を幸せな気持ちにさせてくれる。

「でも、ごめんね。僕が至らなかったから、色々と余計な心配をさせちゃったんだね。君はちゃんと、僕にプロポーズしてくれたのにね」

うん?        と岬の言葉に日向は訝しむ。プロポーズ?なんのこと?

「高校を卒業してプロチームと契約したら、結婚しようね」
「・・・はい?」
「小次郎。僕の本当のお嫁さんになってください。僕の本当の家族になって」

ちゃんとしたプロポーズは、プロになったらまたやり直すからね・・・と、蕩けそうに甘い笑みを刷いて、岬が日向の目尻にキスをする。

「いや、男同士だし、結婚できないし」
「できる国はあるじゃない。フランスも同性婚できるように法改正されたんだよ」
「国籍変えたらダメだろ!」
「じゃあ、式だけでもフランスで挙げようよ。僕たちが再会した思い出の地でもあることだし」

ぼく、すごく幸せだよ。ありがとうね、小次郎。絶対に後悔させないからね           と、パシャンと水音を立てて、岬が日向の両手を握りこんで、迫る。

「う、うん・・・」

岬の勢いと満面の笑顔に押されるように、気がついたら日向はコクリと頷いていた。両手を握られて退路を断たれたような今の状況にデジャヴを感じないでもなかったが、あまりの岬の幸福そうな様子に、「まあ、いいか」と今日も流される日向がいるのだった。







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